きがるに書くログ

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無理して働かないほうがいい ~phaさんと泉谷閑示さんについて~

前に感想を書いた『仕事なんか生きがいにするな 生きる意味を再び考える』が面白かったので、同じ著者の『「普通がいい」という病』も読んだ。

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アマゾンのレビュー数とかを見る限り、どうやらこの『「普通がいい」という病』が代表作らしい。

「普通」という「世間の常識」が個人の「自分らしさ」を抑圧する社会での生きづらさを紐解く内容の本で、刊行されたのは2006年だけど、いまの社会にも十分当てはまる内容に思える。

 

著者の泉谷閑示さんは精神科医なのだけど詩や文学に通じている人で、医学・科学の話よりも文学の話がバンバン出てくるところが面白い。

たとえば「正常/異常」という言葉について、中原中也の詩を引用してからこう続ける。

この「病的である者こそは、現實を知つてゐるやうに私には思へる」という所に、中原中也の痛烈な叫びがあると思います。先ほども言いましたが、この正常というものが何をもって約束されているのか。それはやはり、世間一般の常識とか、そういった類のものだろうと思います。そこから逸脱した者は病的と見なされてしまう。しかし、そういう人たちの方が、鋭く物事を見抜いているところもあるのではないか、と中也は告発しているのです。

(『「普通がいい」という病』から引用)

ここで著者は「世間の常識は正しい」という価値観に疑問を投げかけているんだけど、この部分を読んでいて思い出したのが「京大卒のニート」として有名になったブロガーで作家のphaさんだ。

phaさんの著書『しないことリスト』の中に『だるさを無視しない』というタイトルの文章がある。

その中ではphaさんは、人一倍「だるがり」な自分は社会の中での「炭鉱のカナリア」のようなものだと思っていると書いている。

昔は、炭鉱に入っていくときに、カナリアを籠に入れて連れていった。炭鉱にはところどころに危険なガスが発生しているのだけど、ガスの溜まっている場所に入ると人間より先にカナリアがガスを察知してグッタリして鳴き止むので、その場所が危険だということがわかるという仕組みだ。人間の社会でも同じように、ストレスに弱い人のほうが状況のおかしさを一番早く察知できる。

(『しないことリスト』から引用)

また、だるさというのは体や心の不調のサインだから無視しない方がいい、とも書いていて、ここにも泉谷閑示さんの主張と似ているところがある。

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(『「普通がいい」という病』から引用)

泉谷さんは上の図のように人間の仕組みを説明していて、「頭」が理性を、「心」が感情や欲求を担っているという。

そして心が感じる直観的な欲求に頭(理性)がフタをして押さえつけ続けると、心が不調を起こす。

その不調は食欲不振や倦怠感などのかたちで、「身体」にも現れるというわけだ(上の図で「心」と「身体」が繋がっているのはそのことを表現するため)。

 

ふたりの本を読んでいると、やっぱり世間への違和感を押し殺していると、ろくなことにならなさそうだなと思う。

僕は基本的には社会に適応できる人間なのだけど、労働に関しては「正社員で就職して一人前で、週5で働くのが普通で、残業もするのが当たり前で……」という労働観に馴染めない。

多数派の意見は「多くの人がそう思っていること」にすぎず、それが「正しい」「その通りにしなくちゃいけない」ではない。

それに合わせられない場合は、無理に合わせてもいいことはないと思う。

「労働」に関して言えば、「あとで後悔するぞ」という不安から無理して働いても、倒れたりしたらそれこそ後悔しかねない。

倒れなくても自分の人生を振り返ったときに「もっとゆとりのある生き方をすればよかった」と後悔するかもしれない。こっちの方がありそうに思えてきた。

どっちにしろ後悔しかねないのだ。ついでに言うとどっちにしろ誰も責任とってくれない。

『「普通がいい」という病』には「メメント・モリ」とタイトルのついた項がある。ラテン語で「自分がいつか死ぬことを忘れるな」という意味の警句だ。

この死という問題をきちんと見据えて生きることは、最後の瞬間にとても大きな違いを生むものではないかと思うのです。失敗も成功もすべてひっくるめて、自分らしい人生だったと思えるならば、納得のいく死に方ができるのではないでしょうか。

(『「普通がいい」という病』から引用)

どの道を選んでも後悔しかねないし、どうせ死ぬなら自分で納得できる死に方(生き方)をしたいなと思う。

「普通」に違和感を覚えたら、その「普通」から(できる範囲で)距離をとる。そうしちゃいけない理由もないだろう。

とはいえ「わかっちゃいるけどやれない」のが人間なのだけれど、それでも「普通」は必ずしも「正解」ではない、と教えてくれる人(と本)の存在は忘れてはいけない。

「普通がいい」という病 (講談社現代新書)

「普通がいい」という病 (講談社現代新書)

 
しないことリスト

しないことリスト

  • 作者:pha
  • 発売日: 2016/03/04
  • メディア: Kindle