きがるに書くログ

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本気の仕事のかっこよさ 『マグロの最高峰』

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2019年のマグロの初競りの落札価格を知って驚いた。3億円だそうだ。マグロ一匹3億円。

本当に旨いマグロは人生観さえ変えてしまう、とすら言う鮨屋もいるそうで、本書はそんなマグロの「釣り上げてから食べられるまで」を追いかけたドキュメンタリーだ。

 

漁師や鮨職人や仲卸(漁師が釣った魚を落札して飲食店に売る業者)への取材から見えてくる「本気の仕事」がカッコいい。

とくに「石司」(いしじ)という業界トップの仲卸業者を取材したくだりが面白く、マグロの世界の奥深さが見えてくる。

なんでも、マグロは身質の個体差が激しく、落札して解体する前にその良し悪しを見分けるのはとても難しいらしい。

しかも熟成が進んでから美味しくなるということもあるから余計に難しいのだという。

そんなマグロの的確な目利きのほか、競りから解体、取引先への供給まで、あらゆる仕事に妥協がない。「職人」というのは寿司職人だけではないのだ。

中島は高校卒業後、やはりマグロの仲買人だった父の背中を追いかけてこの世界に飛び込んだ。あれから三十年。以来、何匹のマグロを競り落とし、さばいてきたか分からない。豊洲でも、この規格外の包丁を使いこなすのは中島しかいない。

「中島さんのマグロはね、その断面見ただけでわかりますよ。あんなにストーンと美しい断面を出せる人はいません。値段なんて値切ったことも、聞いたこともないですよ」

こういう、いかにも「職人の世界」って感じの描写がカッコいい。石司のマグロを握らせてもらうのに10年かかった、なんて話もあるらしい。

「マグロに触れた瞬間、その魚がどこでどんなふうに釣り上げられ、その後、どんな経緯でここにたどり着いたのかが、まるで動画のようになって頭の中を駆けめぐるんです」

この発言なんか最高にカッコいい。つい足をバタつかせてしまう。

 

落札価格3億円のマグロをめぐるドラマも面白い。

3億円の値段がついたのは2019年の初競り。落札したのは「すしざんまい」で、すしざんまいと競ったのは海外にも店舗を持つ銀座の名店「おのでら」だった。

その背景には、日本のお客さんに一番のマグロを食べさせたい「すしざんまい」 vs 海外のお客さんに日本のマグロの旨さを知らしめたい「おのでら」という、鮨屋同士の信念のぶつかり合いがあった。単なる広告効果を狙っただけのものではない。

それにしても3億円はやり過ぎだろうと思うのだけど、そのスケールのでかさもまた面白い。

 

マグロ漁にもセリ市場にも鮨屋にも縁がない人間だけれど、だからこそ知らない世界を垣間見ることができて楽しかった。知らない世界を見るのは楽しいし、だから本を読むのは楽しい。

一方で、マグロの資源量が減っている現実はシリアスだ。その原因としては気候変動や乱獲が指摘されている。

マグロにしろウナギにしろ、無責任に食ってちゃいけないのだなと思う。