そんなに貯金しなくていいのでは? 『働く君に伝えたい「お金」の教養 人生を変える5つの特別講義』(出口治明)
お金はなるべく使いたくない。貯金が減るからだ。
給料は安いし、どうやら年金も頼りにならなさそうだ。
だから老後に備えて、いまのうちから節約して蓄えを作ることが「正解」だと思っていた。
お金についての考えを変えた本
ところが、本書を読んでから、少し考えが変わった。
あまり貯金に執着しなくなって、お金を積極的に使うようになったのだ。
もちろん「いまが楽しければいい」みたいな話ではない。むしろ堅実で、おれみたいな平凡な人間にも実践できる内容だ。
この本、毎日をぐっと楽しいものに変える力がある本だと思うので、ちょっと紹介させてほしい。
お金リテラシーを身につける講義
この本は、ライフネット生命保険の創業者で代表取締役会長(当時)の、出口治明氏による、若者のための「お金の講義」。
出口さんは、「子育て世代が安心して子供を育てられる社会にしたい」との想いから低価格のライフネット生命保険を創業し、「若者の人生とお金」について考え続けてきたお金のプロだ。
その出口さんが、お金の不安に支配されないための「お金リテラシー」を、
- 「知る」
- 「使う」
- 「貯める」
- 「増やす」
- 「稼ぐ」
の5つの章にわたって教えてくれるのが本書である。
表紙には「20代の新しいお金づきあい入門」とあるが、30代が読んでも充分ためになった。
貯金に執着しなくなった理由
この本の中で一番「なるほど」と思ったのは「老後もフローを絶やさない」という考え方だ。
フローとは経済学用語でお金の出入り(収入と支出)のことを指す。ここでは収入のことと考えていい。
出口さんは、「老後に困窮するのが不安」という恐怖心について、働き続けてフロー(収入)を絶やさなければ、その恐怖心もだいぶ薄らぐだろうと言う。
「いや、老後も働くのかよ……」と思ったでしょう。おれも思いました。
でも、ものは考えようなのだ。貯めた貯金で生きる老後はたぶん、そんなにいいものでない。
長生きするの、怖くない?
出口さんの説明はこうだ。もしも80歳で死ぬと確実にわかっている社会だったら、寿命までの期間に必要な金額を計算して貯めればいい。
しかし、現実には思いがけず100歳まで長生きしてしまうこともあり、そうなると結局お金が足りなくなる。
それなら、定期的な「フロー」で生活するほうが安心でしょうというわけだ。
さらに、楽しいことを我慢してたんまり貯金を作って、「よしこれで安心だ」と思った矢先に死んでしまう可能性だってある、とも言う。
たしかに、貯金を切り崩す生き方だと「いつまで生きちゃうんだろう?」と怯えて生きることになる。
150まで余裕で暮らせる財産を作れたら話は別だけど、ちょっと無理っぽい。
それなら収入を絶やさない方に考えを切り替えればよかったのだ。
貯金切れに怯えて生きるより、こっちのほうがずっと希望があるように、おれには思える。
「理想論」ではない
また、出口さんは、収入を絶やさず生きる生活は「理想論」でないと言い、定年制は今後なくなるだろうと予測する。
たしかにおれが65歳になる頃(約30年後)の65歳はまだまだ元気だろう。
考えてみれば父も定年を過ぎたが週3日くらい働いている(生活のためというより時間が余るから、という感じみたいだけど)。
その年になっても働ける健康とか能力とかは必要だし、そもそも30年後の社会のことは誰にもわからない。
でも、こう考えることで「貯金しなきゃ……!」とガチガチに固まっていた考えがほぐれた。
お金を使う楽しさを知った
貯金に対する考え方が変わったことで、好きなものにお金を使うことに抵抗がなくなった(もちろん収入の範囲内で)。
本にお金を惜しまなくなったとか、好きなアーティストのファンクラブに入ったとか。あと暖房の設定温度を上げた(部屋が寒いとそれはそれは幸福度が下がるのだ)。
読みたいなと思った本を、いい意味で深く考えずパッと買えるのは単純にうれしいし、時間の節約にもなる。
好きなアーティストをファンクラブ会費の形で応援できるのも楽しい。FC枠でチケットを取ったら最前列でビビった。
はたから見れば大したことないけど、これだけの変化で、好きなことをより楽しめるようになった。
本書に出てくる「お金は、人生を楽しくするための手段、ツールである」という言葉に、いまなら頷ける。
よくわからないものは不安
お金が大事なのは知っているのに、我々はお金のことをあまり知らない。
そして、よくわからないことは不安になるものだ。
お金と将来に漠然とした不安があるなら、「お金リテラシー」のことを知ると、少し気持ちが変わるかもしれない。
苦しい倹約でも、無計画な散財でもない、お金との賢い付き合い方を学べる本だ。
とてもいい本なので、ぜひ。