きがるに書くログ

「マカロニグラタン」と同じアクセントです

「動物好き」ほど耳が痛い 『はじめての動物倫理学』

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向き合いたくなくても向き合わなくてはならない問題が、世の中にはある。

本書が投げかけるのはその類の問題だ。

 

タイトルの通り動物倫理学の本である。

動物倫理学を平たく言うと、「動物も人間と同じく権利を有する存在なのではないか」と問い、肉食や動物実験など、動物との関わりあい方を考える学問、ということになるだろうか。

タイトルに「はじめての」とあるだけに、初学者にも分かりやすく書かれている。そもそも倫理とは何か、という話から解説してくれる丁寧な説明がいい。

 

この動物倫理学の観点から、現在行われている人間による「動物の利用」を批判するのが本書の主な内容だ。

ここで言う動物の利用とは肉食や動物実験などの分かりやすい事例だけではない。

動物園や水族館、さらにはコンパニオンアニマル(ペット)も本書に言わせれば動物の利用であり、廃絶するべきだと主張する。

 

動物に優しくしようというだけなら、わざわざ反対する人は少ないだろう。優しくしたほうがいいに決まっている。

本書で紹介される動物利用の現状は悲惨だ。このままではいけない。

しかし、肉を食べない(もしくはなるべく食べない)方が倫理的に望ましいといわれると、正直「そ、そうかも知んないけどさ……」となる。

しかもペットまで人間による「動物の利用」となるとなおさらで(実家に猫がいる)、動物倫理学というのは「動物好き」ほど居心地が悪くなる学問なのかもしれない。

 

つけ加えておくと、本書は極端な意見を声高に振りかざして肉食者らを批難するような本ではない。

実現が難しいことなのは十分に踏まえた上で、それでも最終的には動物の権利を尊重した社会を目指すべきではないか、と述べるのである。

それでも本書が投げかけるのは「不穏な問い」であることには変わりないだろう。

 

個人的には本書の主張に頷くところもあれば、首をひねるところもある。

しかし倫理の本にケチをつけられるほど賢くないので、議論の詳細に立ち入ってあれこれ言うのはやめておく。

やめておくんだけど、それにしても、と考える。本書が描く未来が実現したら、人間と動物の関係はどうなるんだろう。

動物園や水族館がなくなる、ペットがいなくなる、農場もなくなる。

人間と動物との関係は今よりずっと希薄になるんじゃないか。いるのは知ってるし尊重もするけど特別仲良くもない、都会的な意味での「お隣さん」みたいな、よそよそしい感じに。

それが動物のためと言われればそれまでだが、少なくとも「動物保護」「動物を思いやる」といった言葉からパッと思い浮かべるような世界とは、なにか違ったものになりそうな気はする。