きがるに書くログ

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生活保護はなぜ必要か 『生活保護から考える』

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生活保護制度は手厚く守られるべきだし、基準額の引き下げもそう簡単にあってはいけないし、生活保護制度はもっと使いやすい制度であるべきだ。

言われるまでもなく知ってたけど、本書を読み終えて改めてそう思う。

 

本書は日本国内の貧困問題に取り組むNPO「自立生活サポートセンター・もやい」創設者の稲葉剛(いなば・つよし)さんの本。

実は「もやい」に寄付をしているのだけど、その割に貧困問題についての本はあまり読んでこなかった。それもなんだかな、ということで読んだ。

 

本書の刊行は2013年。同年から始まった「生活保護基準の段階的引き下げ」などの政策の問題点を指摘するとともに、生活保護制度全体の問題を論じる。

刊行から8年が経とうとしているが、本書で論じられている問題は現在も続いている。

たとえば生活扶助費の「夏季加算」はまだ実現していないようだし、福祉事務所での「水際作戦」もなくなっていない。

(夏季加算:夏季に必要となるクーラーの電気代を支給額に上乗せする仕組み。冬の暖房代などを上乗せする「冬季加算」はあるが「夏季加算」はない。)

diamond.jp

そして「引き下げ」の取り消しを求める裁判は、現在各地で行われている。

大阪では原告の訴えを認め、引き下げを違法とする一審の判決が下ったが(二審は2021年9月14日から)、おれの住む札幌では原告の訴えが棄却された。

 

本書で取り上げられている生活保護利用者の声は切実だ。自分と違う環境に生まれ、違う経験をしてきた人たちへの想像力を失くしてはいけない。

想像力といえば、生活保護の「現物給付案」(現金でなく食料回数券などの形で給付する案。2012年に自民党が提案した)について書かれた部分が印象に残った。

この現物給付案に対する「乳幼児や高齢者、アレルギーなどがある人たちが適切な食事を取れなくなるのではないか」という指摘に、あぁそうか、と唸ってしまった。恥ずかしながら、そういう問題を「想像」していなかったのだ。

本当は、政策を決める人たちがそこまで想像してくれればいいのだけど、残念ながらそれができる人ばかりではない(自分のことを棚に上げて言うが)。

だから、貧困問題に限らず、外部から声を上げる存在は必要なのだ。

 

生活保護が手厚く守られるべき理由を端的に表しているのはこの部分だと思う。

生活保護制度の本当の意味とは何でしょうか。それは人間の「生」を無条件で保障し、肯定するということだと私は考えています。

(中略)

生活保護バッシングが生まれる背景にはさまざまな誤解や偏見があるのでしょうが、その根底には「生」を条件付きの形でしか肯定できない感性が沈殿しているように私には見えます。

よく聞く「セーフティネットを否定していると自分が働けなくなった時に困るんだよ」という意見も正しいと思うが、突き詰めるとこういうことなのだろう。

これからも寄付できるうちは寄付をする。「生」を無条件で認められたいので。