「怒らない」のは無理 『アンガーマネジメント入門』(安藤俊介)
できることなら怒りたくない。でもストレス源と無縁でいることは不可能だ。
ネットの心無い書き込み、ムチャクチャなこという客、苦手なあの人。
分かっちゃいるけど怒っちゃうのが「怒り」の困ったところだ。これはもう、どうにもできないのか?
怒りのコントロールは身につけられる
『アンガーマネジメント入門』によれば、怒りをコントロールする技術は、身につけられる。
アンガーマネジメントは企業研修やスポーツ選手のメンタルトレーニングなど、様々な現場で導入されている心理トレーニング。
本書はタイトル通りその入門書だ。
これを読んでから怒りと付き合うコツが少し掴めたので、特に参考になったところを紹介させてほしい。
(どうでもいいことで)怒らない
アンガーマネジメントを身につけると「怒らない人間」になれるかというと、そうじゃない。
アンガーマネジメントは「怒らなくなる技術」ではなく「どうでもいいことで怒らなくなる技術」。
その名のとおり、怒り(アンガー)をマネジメントするのがアンガーマネジメントだ。
怒らないのは無理
本書の中で、著者は「『怒り』はなくせません。」と言い切っている。
怒りは動物の生存に欠かせない「本能」として人間に備わったものだからだ。
これは怒りを上手にコントロールするのに欠かせない認識だと思う。
多くの人は、怒りを感じたこと自体を悔いて「自分は心が狭い」などと落ち込んでないだろうか。
でも、怒りが湧くことは自然なことなのだ。
そこは自分を許していいと思うと少し楽になるだろう。
怒りを生むふたつの仕組み
で、「怒りはなくせない」と認めた上で、その怒りをどうコントロールするか。
怒りの上手なコントロールには、まず「怒り」の仕組みの理解が必要だ。
本書では、怒りが爆発する仕組みを
- コアビリーフ
- トリガー思考
というふたつのキーワードで説明している。
人はみな「価値観の辞書」を持っている
コアビリーフとは「信念」のこと。本書では「価値観の辞書」と表現している。
人間は、
- 嘘をついてはいけない
- 先輩の言うことは聞くべきだ
- 客の要望は叶えられて当然だ
みたいな価値観をそれぞれに持っている。
この「辞書」に反する出来事に遭遇すると怒りを覚えるのだ(心当たりあるでしょう?)。
自分の辞書を校閲する
コアビリーフは誰にでもある。しかし、それが自分や他人を傷つける場合は、修正したほうが楽になれる。
自分のコアビリーフを「それは本当に、本当に正しいか?」と客観視するのがアンガーマネジメントだ。
もちろん、本書ではその具体的なやり方も紹介している。
大抵の場合、自分のコアビリーフは絶対的なものではないことに気づくだろう。
明らかに間違ってることとか、明らかに正しいことって、世の中そうそうないのだ。
(もちろん「人それぞれ」で済ませられないこともあるけど、日常での怒りについては、ね?)
人は「怒りのツボ」を押されると怒る
もう一つのキーワード「トリガー思考」は要するに「怒りのツボ」。怒りのきっかけになりやすい事柄だ。
足を踏まれても怒らないけど嘘をつかれるとキレるとか、そういうツボは誰にでもあるだろう。
ツボを自覚する
アンガーマネジメントでは、自分の「トリガー思考」を探ることも重視する。
ツボを押されても「これは自分のトリガー思考だ」と先回りして対処することができるからである。
個人的な実感としても、自分のトリガー思考を把握しておくことは重要だと感じている。
ツボ案件に遭遇しても「あーはいはい、これね......」と落ち着いて構えられるのだ。
怒らなくなるわけではない。でもこれを知っておくだけで、怒りとの向き合い方がだいぶ違う。
咄嗟の衝動を抑える
とはいえ、怒りが湧いたとき、言い返したいという「咄嗟の衝動」を抑えるのも大変だ。
本書4章では「ムカッ」ときたときの対処法を紹介していて、これも参考になる。
いくつか紹介されているうち、おれがよくやるのが「コーピングマントラ」というテクニックだ。
これは怒りを感じたとき、自分を落ち着かせる言葉を自分に言い聞かせるというもの。
唱える言葉はオリジナルなものでもいい。本書では一般的な例として
- 「大丈夫、なんとかなるさ」
- 「1カ月後には忘れてる」
- 「自分も、自分の感情もコントロールできる」
といったフレーズが紹介されている。
自分に「よしよし」しよう
ちなみに、個人的には「そうだよな、嫌だったよな」が鉄板である。
トリガー思考は多くの場合、過去の嫌な経験に由来する(おれもそう)ので、こう唱えて自分をなだめている。
要するに自分に「よしよし」しているのだけど、これがけっこう効くのだ。
「やり過ごしたるぞ」の境地
上手に怒りを処理できたときは、達成感があってうれしくなる。
ムカッとする出来事に遭遇したとき「よし、やり過ごしたるぞ」と思えたら、しめたものだ。
怒らないことの、少なくとも一部は技術なのだ。
身に付けておけば、怒りから身を守れるし、無駄に他人を傷つけることも減るだろう。
アンガーマネジメント、もっと普及すればいいなぁと思う。本当に。